第3回 初級 基礎資料 その10

代表的な工作機械の種類《問題19 参考》

8-6 NC工作機械

1952年に米国マサチューセッツ工科大学(M.I.T)で、航空機用複雑形状部品の切削が制御できる装置を付けたフライス盤(シンシナティ・ミーリング社製)が完成しました。この制御方法が数値制御(Numerical Control)と名付けられ今日に至っています。

今日、工作機械は作業者がハンドルを回すことなどによって操作する「手動工作機械」と、数値制御で自動運転が行える「NC工作機械」とに大別されています。

(1)NC工作機械の座標系《問題15 参考》

NC工作機械の座標系は、図28に示すように直交する3つの直進軸X軸、Y軸、Z軸と、それぞれの軸回りの3つの回転軸A軸、B軸、C軸から成ります。
それぞれの軸の正(+)方向は,次のように決まっています(図30,図31参照)。
ただし、各軸の方向は機械の種類によって異なりますので注意が必要です。

Z軸

工作機械の主軸と平行な軸。

工作物から遠ざかる方向が正(+)方向。

X軸

Z軸に直交する平面内で主に加工作業をする軸。

立て形マシニングセンタでは左右方向がX軸で,右が正(+)方向。

Y軸

Z軸に直交する平面内でX軸に直交する軸。

立て形マシニングセンタでは前後方向がY軸で,奥側が正(+)方向。

A,B,C軸 回転軸は,直進軸の正方向に向かって時計回り方向が正(+)方向。

座標軸と運動の記号は、JIS-B 6310に規定されています。図29のように座標軸の直進3軸は、右手の親指をX軸、人差し指をY軸、中指をZ軸とし、指先の方向が各軸の正(+)方向と決められています。これを右手直交座標系といいます。

  • 図28:NC工作機械の座標軸
  • 図29:右手直交座標系
  • 図30:NC旋盤の座標軸
  • 図31:立て形マシニングセンタの座標軸
(2)NC工作機械導入の利点《問題17 参考》

NC工作機械の導入は従来の手動工作機械に比べて多くの利点があります。

以下に一般的な利点を列挙します。

①品質管理が容易

手動工作機械では熟練度により、寸法や面の状態にばらつきが生じる可能性があります。これに対しNC工作機械は、数値情報に基づいて自動加工が行われるので、熟練者でなくても複雑形状を安定した精度で加工ができます。

②生産性の向上

手動工作機械では、加工図面を見ながら手動で加工を行いますが、NC工作機械では、切削条件等のプログラム入力で自動運転されるため、加工工程が短縮できます。また、一人で複数台の機械が操作できるので、生産性の向上に寄与できます。

③作業安全性の確保

最近のNC工作機械は、プログラム確認がビジュアルにNC画面上で行え、また機械の動作部分が完全にカバーで囲われているため、作業者の機械災害の可能性が低くなります。

(3)NC工作機械の位置決め《問題16 参考》

一般に旋盤は2軸、フライス盤は3軸から成るNC工作機械の主要構造要素が直線移動するには、送りモータの回転を直線運動に変換する送りねじとしてボールネジが使われます。ボールネジはネジの山とナットの間に鋼球が入り摩擦力がほとんどなく、軽く回る精密ネジです。

図32は、今日一般的なNC制御方法である「セミクローズドループ」のNC工作機械テーブル送り機構です。送りモータは継手を介してボールネジに繋げられ、ねじのナット部はテ―ブル下面の台座に取付けられます。そして、テ―ブルはネジが回ることでガイドレール(あるいは摺動面)上を左右に移動します。NC装置は、例えばテーブルを「速度200mm/minで100mm動かしなさい。」という指令で送りモータを回します。そして、送りモータについたセンサー(エンコーダー)から逐次得られるテ―ブルの移動量と速度情報をNC装置側に戻し(フィードバック)、指令値と比較して誤差補正を送りモータに指令します。このように構成されたフィードバックシステムをサ―ボ機構と言います。

図32:セミクロ―ズドループ制御機構概要図
(4)マシニングセンタ《問題19 参考》

米国ではNCフライス盤の完成後、各種加工機能を1台に集約したマシニングセンタ(図33)を1958年カーネイ&トレッカー社が世界で初めて開発しました。また、日本では1960年日立製作所が国産第一号「ATC付NC万能工作機械」を試作しました。

図33:Kerney and Trecker Milwaukee Matic II

マシニングセンタがNCフライス盤と異なる点は、フライス加工以外に穴あけ・中ぐり・ねじ立てなど種々の作業ができ、切削工具を何本も工具マガジンに収納してNCの指令に従って工具を自動工具交換装置(ATC)で交換が行える点でしょう。

図34の横形マシニングセンタのATCでは、加工中、次の加工に必要な切削工具は工具収納マガジンが回ることで所定位置に移動します。そして、加工が終了すると主軸は工具交換位置に移動、工具交換アームが主軸と工具収納マガジンから新旧切削工具を引き抜きます。(1)~(2)次に工具交換アームが180度旋回することで、主軸には新しい切削工具が装着され、工具収納マガジンには古い切削工具が戻されます。(3)~(5)

図34:自動工具交換装置の仕組み(Kerney and Trecker Milwaukee Matic Series Eb)
立て形マシニングセンタ
横形マシニングセンタ

図35

図35のように、マシニングセンタは主軸の位置で立て形と横形に分類されます。立て形マシニングセンタは垂直方向の主軸を持ち、工作物を上から加工します。従って、加工は高さがあまり高くない(平物)工作物に向きます。また、主軸が工作物の横にある横形と比べ機械の設置スペースが少なくて済みます。さらに、立て形では機械テーブルへの接近性が良いので、設計図面と見比べながら加工ができます。

立て形マシニングセンタは工作物の上面のみしか完全な加工ができません。一方、横形マシニングセンタは水平方向の主軸を持つため、工作物を横から加工できます。そして、テ―ブルが一般的には90度ずつ回転するので、図36のように角型工作物の4側面が加工できる利点があります。

図36:横形マシニングセンタの加工

横形マシニングセンタには無人加工の目的で、自動パレット交換装置が多く装備されます。自動パレット交換装置(図37)は機械の外側に置かれ、装置上のパレットに、あらかじめ工作物を取付けることができます。自動パレット交換装置は前の工作物の加工が終わるとパレットを機械内部から引き抜き、新しい工作物をパレットとともに機械内部に送り込みます。

図37:横形マシニングセンタと自動パレット交換装置
(5)ターニングセンタ《問題18 問題19 参考》

NC旋盤の機能をより高め、多角形(タレット)刃物台に複数の切削工具を備え、工作物を1回のチャック取付で、旋削加工の他にフライス加工や穴あけ加工等が可能な工作機械をターニングセンタと呼んでいます。ターニングセンタは図38のように、各工程で必要な切削工具をタレット(図39)の旋回で自動選択でき、マシニングセンタの機能があることから丸物工作物用のマシニングセンタと言うこともできます。

図38:ターニングセンタによる加工例
図39:タレット型刃物台
図40:ターニングセンタ
(6)複合加工機《問題20 参考》

マシニングセンタとNC旋盤の機能を持つ複合工作機械で、直進3軸と回転2軸が同時に制御でき複雑形状部品の加工が可能です。構造形態には以下にそれぞれの一例を示しますが、「マシニングセンタ型」と「NC旋盤型」があります。
なお、近年では旋盤作業とフライス作業のみでなく、研削加工やレーザー加工、また積層造形機能等を持つ複合加工機もあります。

① 5軸制御マシニングセンタ

直進3軸制御マシニングセンタに回転2軸を追加したものを5軸制御マシニングセンタと呼びます。そして回転テーブルのC軸が高速回転機能を持つものがマシニングセンタ型複合加工機です。

図41:5軸制御マシニングセンタ
② NC旋盤型複合加工機

ターニングセンタにマシニングセンタと同等のフライス加工能力を備えた機械です。工具マガジンと自動工具交換装置を持つ構造もあります。

図42:NC旋盤型複合加工機
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